29 すべてのものごと

 

 

 

すべてのものごとは常に変化し

記憶は変化のなかに溶けていく。

そのうち溶けて

なにも残らない。

いつまでたっても残り続けて

いつまでたっても同じ重さで

自分を脅かす何かがあるとすれば

それは過去や記憶をつねに

同じ重さと鮮やかさで

何度も繰り返し

止まらない回転木馬となって

脳内反芻することによって

まるであたかもたった今

新しく起こっているかのように

現在進行形の心の経験として

そのつど更新し直しながら

積み重ねているということ。

 

ほんとうはもう実体のない

なにもないものを

いつまでもぎゅうっとかたく

握りしめておくことはない。

握りしめておけるものでもない。

ぐうちょきぱ

ほら見て

ぱの勢いで思い切り開いた手のひらには

ほんとうは何も入っていない。

 

そこにはなにもないし

それらはもう私のものではない

それらは変化と時間に属するもので

今の私からはもう遠く離れた

関係のないただの気体だ。

なんにもない

溶けて消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

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