27 桃の花メランコリー

 

 

 

桃の花メランコリー

 

金曜日の朝市へ行った帰り道

いつものカフェでクロワッサン

 

愛犬はうろうろ我がもの顔

店主にハムを分けてもらう

 

新聞読みふける紳士の足元を

何の遠慮もなくすり抜ける

何も落ちていないつまらない床

行儀の良い紳士の朝ごはん

2杯目の熱いエスプレッソ

ふうわり何かが足元を

撫でるように通っても

ないものとして目は新聞に

 

 

常連客のママと娘

幼い丸いその頰と

瞳に明るい色が差し

習ったばかりの歌を披露

 

笑っているのに泣きそうな

手拍子うって聞く店主

なにをしてもあがる歓声

幼い心が守られる

 

朝市で買った桃の花

そうだった今日はお雛さま

枝の束から数本抜き取り

これどうぞと幼い子どもに

 

これは桃の花

今日はさんがつみっか

私の故郷の国では

娘の健やかな成長を

お願いしてお祝いする日

あなたにも心から愛と幸運を

 

ひらいた可憐な桃の花

子どもはぱあっと嬉しい顔をして

きれいなお花と言いながら

小さな丸い手に枝を受け取った

 

大切に、大切に

なにもかも誰もかれも

大切にされなければ

いけないのだ

 

愛犬はクロワッサンのこまかいかけらに夢中

掃除機のように床を這う

そうじしなくて済むから助かるね

と笑う店主 

 

これは私の毛むくじゃら娘

大切に

大切に

 

新聞の紳士はもういなかった

飲み干したエスプレッソ

やや傾いた冷たいカップ

 

平和な金曜日の思い出話

桃の節句に桃の花

 

 

 

 

 

 

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