6 縫い目を帰る

 

 

縫い目を帰る

 

電車は長距離を走る。空港駅を経由して、言語をまたいで土地を縫っていく。

私が乗るのはほんの短い距離、パッチワークの縫い目に浮き出る糸ぐらい。

 

地平線をゆるやかに縁取る広い丘陵の線上に、大きな太陽が、まさに沈もうとしている。

ぎらぎらでもない、ぴかぴかでもない、燦々と、でもない。

ただ、丸い、まん丸だ。

 

じっと観たまん丸の太陽は、ゆらゆらと朱色になって溶けていく。

 

太陽が沈むのか、大地が迫り上がるのか。

 

あの丘は西の方角、どうして西が自分の左前に見えているのだろう、

私の家はここから南の方角にあるはずなのに。

 

そのあと電車がぐんぐんと左へカーブして、そのうち夕日が右側の窓から、

最後の光を電車のなかに落としてきて、

やっぱり私は無事に帰り道の途中だと体感で知る。

 

方向感覚は線路の曲線によって翻弄される。

見慣れているはずの景色、揺られ慣れているカーブなのに、

揺られるたびに新しい土地にいるような不思議な気持ち、

それが私の帰路、四月の夕空。

 

 

 

2021年4月

 

 

 

 

 

 

6