縫い目を帰る
電車は長距離を走る。空港駅を経由して、言語をまたいで土地を縫っていく。
私が乗るのはほんの短い距離、パッチワークの縫い目に浮き出る糸ぐらい。
地平線をゆるやかに縁取る広い丘陵の線上に、大きな太陽が、まさに沈もうとしている。
ぎらぎらでもない、ぴかぴかでもない、燦々と、でもない。
ただ、丸い、まん丸だ。
じっと観たまん丸の太陽は、ゆらゆらと朱色になって溶けていく。
太陽が沈むのか、大地が迫り上がるのか。
あの丘は西の方角、どうして西が自分の左前に見えているのだろう、
私の家はここから南の方角にあるはずなのに。
そのあと電車がぐんぐんと左へカーブして、そのうち夕日が右側の窓から、
最後の光を電車のなかに落としてきて、
やっぱり私は無事に帰り道の途中だと体感で知る。
方向感覚は線路の曲線によって翻弄される。
見慣れているはずの景色、揺られ慣れているカーブなのに、
揺られるたびに新しい土地にいるような不思議な気持ち、
それが私の帰路、四月の夕空。
2021年4月
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