本音を語るハンプティダンプティ
オレがちょっと転がっただけで
みんな大騒ぎさ
塀の上からいつ落ちてやろうかと
こっちはワクワクしてるっていうのに
『このずんぐりむっくりは
危なっかしくてしょうがない
おい そこのずんぐりむっくり
決して落ちるんじゃないぞ
いっかい割れたら もうおしまい
どれだけ人手を集めても
直せやしない
なんて厄介なずんぐりむっくり
落ち着いて
そこでじっとしてるんだ
わかってるな
すべて終わるぞ、
二度と、
元には戻れないんだぞ
二度と、
同じ状態にはなれないんだぞ
だから、
絶対に割れるんじゃないぞ、
わかってるな』
あー うるさいったらありゃしない
そんなしたり顔の説教にはもうウンザリだ
誰がいつ
壊れたらまた同じように
元に戻りたいなんて言った?
ずっと変わらず同じことなんて
あるわけないでしょうよ
なぜにずんぐりむっくりだけが
この世の常に逆らって
ただ身を固くして
じっとしてなきゃならないってんだ?
だいたいね
キミたちは一体いま
どこにいると思ってる?
どこにいて
何になっていると信じてる?
え?
考えたことない?
仕方ない
このずんぐりむっくりが
教えてあげよう
キミたちは
オレの
体内でぶわんぶわん揺れている
黄身
なんだぜ!
キミは黄身だぜ!
そ れ で だ
黄身であるキミが
生きている毎日
見て聞いて感じて触って
それが世界のすべてであると
信じきって疑いもしないそれは
白身
なんだぜ!
黄身すなわちキミ
キミすなわち黄身
は
ぶわんぶわんの白身のなか
その白身は
オレっていう殻のなかで
ぶるんぶるん漂っているだけなんだぜ
これが分かるかい?
キミが世界のすべてだと信じているところは
ただの白身
殻の中の白身
そしてキミ自身は
白身に包まれている
黄身
自分はただ白身のなかに生きていて
さらにそれは殻の中だったってこと
知ってたかい?
キミはキミの周りを取り囲む世界ごと
ぶわんぶわんしながら
見えない殻のなかに閉じ込められたまま
あっちにこっちに揺らいでいるだけなんだぜ
殻があるってことを
知ればいいのさ
オレが割れれば
それがやっと分かる
元になんて戻らなくていいんだ
殻の外へ
ぱっと出ようぜ
出たら出たきり
戻らないのがいい
殻の外の
まるで見当もつかないような広いところへ
オレは黄身であるキミを
放り出す
不安なことなどひとつもない
殻がなくても
白身はいつも黄身をキミを
包んでいるから
白身ごと
大きな世界をどこまでも
浮遊する
割れた殻の外はこんなにも
軽やかで明るく広く
思いっきり呼吸できるところなのだと
知ったら楽しくなるぜ
だからオレは
いつでもわくわくしてるんだ
割れてしまえ
出てしまえ
だだっ広い空間を生きればいい
オレみたいなものは
放っておいても
いつでもどこかにまた出現する
なぜなら殻の中に
キミを閉じ込めておきたがるものは
いつでも存在するからね
それと同じように
殻の中からわざわざ出たくないものもいる
それはそれでいいさ
それも世の常
オレはただそれらに
便利に使われているまでさ
だがキミは?
殻のなかに閉じ込められたままで
キミはいいのかい?
壊れたものを戻そうとするなんて
壊れたらダメだとやみくもに固めるなんて
まったく愚かなことだ
終わりは始まり
これ流転の法則
さあ転がるぜ
地面に思い切りよく
落下するとしようか
ずんぐりむっくりはもう終わり
終わりは始まり
心配ご無用
オレはハンプティダンプティ
ただの卵の殻
オレが割れたらあとは自由に
自由に楽しく生きるんだぜ!
気の遠くなるような
上も下もないような
広大な次元で
そこからキミのまったく新しい世界が
始まるんだ!
なんだよまったく
わくわくするぜ
1.7.2024
33